「苦役列車」(西村堅太)

苦役列車(西村賢太)

文芸春秋の3月号に掲載されていたので読んでみた。独特な文章が優れているか否かは判断できないけれど、ストーリーやテーマの点から見れば、まだ一回しか読んでいないけれどあまり趣味に合う作品では無かった。小林多喜二の蟹工船を読んだときにも感じたことだけれど、土方であれ派遣であれ環境は上の2冊に劣らず劣悪だったとしても、だからといってそこで働いている人たちの人間性が劣悪か否かはまた別の問題のように感じる。労働への適正というか嗜好は人それぞれであり、もちろん就労へのさまざまな精神的・環境的な障壁もあるけれど、そこで人間が働いている以上そこには様々な人生があり、それなりに過酷な事やそうでない事がないまぜになった現実が存在しているように思う。つまりは本作はすこし汚い部分を極端に描く傾向があり、性的描写を露骨にして売り込んでいる作家から感じる処世術的な不愉快さに似た印象を受けてしまう。

そう遠くない過去に日雇いの港湾労働に従事していた者の日常を映したドキュメンタリー的な作品として読んだ場合には、それなりに意味深い作品だと思う。

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