題名:カラマーゾフの兄弟
著者:ドストエーフスキイ
訳者:米川正夫
発行所:(株)岩波書店
タイプ:岩波文庫 赤614-9~615-2
徹底的な心理描写によって描かれるロシア文学の高峰
女と酒によって生活する零落貴族のフョードル・カラマーゾフ、彼は幼い3人の息子達の養育を放棄して自堕落な生活を送っていた。3人の息子は召使いグレゴーリイの手によって育てられ、やがて成人する。金銭トラブルと女性関係のもつれによって争う2人の兄ドミートリィとイヴンそして父のフョードル。僧院で暮らし、他愛と神の言葉によって生きる弟アリョーシャ。彼らカラマーゾフ家を中心とした物語は一つの悲劇を産み、様々な思想と感情を描きながら展開してく。
『罪と罰』と並ぶドストエーフスキイの代表作です。分量はこちらの方が多く、人間像が多面的なのでこちらを第一の代表作と見る方も多いようです。小説家の村上春樹も自分の目指す「総合小説」の例として『カラマーゾフの兄弟』をあげているようです(Wikipedia:村上春樹)。『罪と罰』同様、事件前から事件後に至るまでの心理描写を徹底的に行い、主人公達の行動の動機や結果から生じる心境の変化などを一つの雰囲気の中に描き出しています。描かれる感情の起伏が激しいので、強い感情や、卑屈な感情の描写が苦手な方にはお薦めできないかもしれません。3人の息子の考え方がそれぞれ違うので、一面的な描写に偏らずに拡がりがある反面、それらを受け止めながら読まないと作品としてのまとまりを得るのに苦労する作品です。ただ、読み進めるとその起伏や分裂状態こそ、ドストエーフスキイにとっての人間理解の表現であることが次第に伝わってきます(と筆者は思います)。重量感のある作品ですが、推理小説のような事件の解き明かしや、純粋な愛憎描写など、物語作品としても完成度が高く教養小説の枠を超えて楽しめる作品です。