吉屋信子について

吉屋信子の作品は、情景の描写や女性の表現、特に着物の表現の豊かさと繊細さが傑出していて、柔らかい心理描写の評価にさらに魅力を加えていると思う。表現の豊かさは、通常の小説というよりは清少納言とか紫式部とか、その頃の表現に近いような印象すらうけ、枕草子は読むのが大変だという向きにもその良さが伝わるのではないかと思う。

けれど、自分にとって彼女の作品の一番の魅力は、成長に対する渇望のようなものが、時によって行間に感じられる点のように思う。それは、フランス文学など、多くの海外作品が当然のように持っていて、なぜか日本の、特に名をなした文学作品の中からは読み取りにくい感情のように思っていたものに近い。

確かに、日本人作家の中にもそのような雰囲気に包まれた方々は多くいるけれど、どことなくアウトサイダー的な感がある。前に書いたKさんはそういった事について「最近の日本人は、ハングリー精神みたいなものが無いのよ」と言っていた。

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作家について, 徒然
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