井上靖

「あすなろ物語」(井上靖)

題名:あすなろ物語
著者:井上靖
発行所:(株)新潮社
タイプ:新潮文庫 い 7 5

自らの目標に向かって歩み続ける人々の物語。

昭和初期、主人公の鮎太は幼少期を祖母と土蔵で暮らし、祖母の姪や町の青年に励まされて中学へ進学する。さまざまな人々との出会いと別れを繰り返しながら、彼は大学を経て新聞記者になる。兵役の後に終戦を迎え、戦後大阪の焼け野原の中、新しい生活をスタートさせる。

この物語は、話の設定が「しろばんば」など著者の自伝小説によく似ています。けれど、主人公を取り巻く人々がとても豊かな色彩で表現されているので、「しろばんば」よりも読みやすい作品です。主人公の性格もしっかりと描かれていますが、主人公の前に現われる人々がとても個性的で皆前向きなので、むしろこれらの人達の上に作品のテーマがあるように感じます。彼らは皆、なにか目指すものを持っていて、その目標に向かってそれぞれ生きています。その姿勢を著者は、明日は檜(ひのき)になろうと願い続ける翌檜(あすなろ)の木に喩えて表現しています。遙か遠くの目標を自ら見つけ、それに向かって歩み続ける人々の姿がよく印象に残る作品です。

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